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水戸地方裁判所 平成9年(ワ)5号 判決 1998年9月07日

原告

押田浩二

被告

岩松祐二

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金二七六八万八四〇五円及びこれに対する平成四年三月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金八三三二万八一八〇円及びこれに対する平成四年三月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告岩松祐二が被告岩松恵美子所有の自家用普通乗用自動車を運転中過失により交通事故現場で交通整理をしていた原告に同車を衝突させたとして、原告が、民法七〇九条に基づき被告岩松祐二に、自動車損害賠償保障法三条に基づき被告岩松恵美子に、それぞれ損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実(証拠掲記のないもの)及び争点判断の前提事実(証拠掲記のあるもの)

1  次のとおり交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成四年三月一〇日午前二時ころ

(二) 場所 茨城県東茨城郡茨城町大字奥谷一八二一番地の九

(三) 加害車両 被告岩松恵美子所有の普通乗用自動車(水戸五六フ九二六九、以下「被告車」という。)

(四) 右運転者 被告岩松祐二

(五) 態様 被告岩松祐二運転の被告車は、上り車線の道路中央に立っていた原告に衝突し、これにより原告を転倒、負傷させた。

2  責任原因

被告岩松恵美子は、被告車を所有して、これを自己のため運行の用に供していたのであるから、自動車損害賠償保障法三条本文に基づき、原告に生じた損害を賠償する義務を負う。

3  原告の受傷状況と後遺障害

(一) 原告は、本件事故により、全身打撲、右脛腓骨骨幹部粉砕骨折、左撓骨骨幹部骨折、眼けん打撲の傷害を負った。

(二) 治療経過は以下のとおりである。

(1) 国立水戸病院

平成四年三月一〇日から同年五月九日まで入院(六一日)。

観血的骨接合術を受ける。

(2) 滝田整形外科病院

平成四年五月九日から同月一二日まで入院(二日)

(3) 土沢整形外科

平成四年五月一二日から同年一〇月三一日まで及び平成五年二月一六日から同年三月五日まで入院(合計一九一日)。手ピンの抜釘と足下のネジの除去手術を受ける。

平成四年一一月一日から平成六年六月二〇日まで通院(実通院日数一四日)。

(4) 国立水戸病院

平成五年六月七日から同年六月二三日まで入院(一七日)。足のパイプの抜釘の手術を受ける。

平成五年七月六日から平成六年六月一七日まで通院(三日)。(甲二号証の2)

(5) 症状固定日 平成六年六月二〇日(甲二号証の1)

(三) 原告の後遺障害

(1) 整形外科関係の診断所見

国立水戸病院整形外科浦川圭二医師の平成六年六月一七日付け後遺障害診断書によれば、以下のとおりである。

(傷病名)右脛腓骨骨幹部粉砕骨折、左撓骨骨幹部骨折(各部位の後遺障害の内容)右脛腓骨骨幹部粉砕骨折を原因として右足が左足に比べ一・五センチメートル短い。右脛腓骨に一・五センチメートルの短縮があり転位がある。右膝の可動域が一〇度(伸展)から一一〇度(屈曲)までしかできない。

また、土沢整形外科の土沢正雄医師の平成六年六月三〇日付け後遺障害診断書によれば、右後遺障害に加えて、右脛腓骨に変形癒合が認められる。

(2) 歯科関係の診断所見

丘の上歯科医院角田利徳医師の平成七年五月二九日付け後遺障害診断書によれば、歯冠部の四分の三以上を失った歯は、左上1、2であり、歯冠補綴を施した歯は、左上1、2、3である。

(3) 自賠責調査事務所の認定

自賠責調査事務所は、整形外科関係の後遺障害は一三級九号に該当するが、歯科関係の後遺障害は後遺障害等級に非該当と認定した。

4  原告の損害

(1) 治療費(ただし、後記歯科関係医療費を除く) 一四二万二六六五円

(2) 診断書等作成費用 四万五〇〇〇円

5  既払金

(1) 被告らは、原告に対し、平成四年四月三〇日から平成五年七月二七日までの間に一二回にわたり損害賠償の一部として合計四二七万五四七五円の支払をした。

(2) 被告らは、医療機関に対し、原告の治療費を左記のとおり支払った。

平成四年六月一八日 国立水戸病院 一四万八〇三〇円

平成五年三月二六日 丘の上歯科医院 二六万三二六〇円

合計四一万一二九〇円

二  (争点)

1  被告岩松祐二の過失

2  本件事故による傷害の程度(顔面打撲及び前歯三本折損の有無、後遺障害の内容程度)

3  原告の損害額(医療器具代、入院雑費、通院交通費、付添看護費用、歯科関係医療費、入通院慰藉料、休業損害、後遺障害による逸失利益、後遺障害慰藉料、弁護士費用)

4  過失相殺

第三争点に対する判断

一  被告岩松祐二の過失

前記争いのない事実及び証拠(乙一ないし四号証、証人竹内清人、原告本人)によれば、被告岩松祐二は、平成四年三月一〇日午前二時ころ、被告車を運転して時速約六〇キロメートルで茨城県東茨城郡茨城町大字奥谷一八二一番地の九付近の国道六号線の直線部分を水戸市方面から石岡市方面に西進中、別紙図面のA地点に事故車両が反対車線を塞ぐ形で停車しており、同図面のB地点に事故処理用のレッカー車が停車しており、右レッカー車の上部に点灯している黄色回転灯をその約一一三・八メートル手前の同図面<1>地点で発見したのであるから、前方を注視するとともに道路・交通の状況に応じた安全な速度で運転する注意義務があるのに、これを怠り、右事故車の除去作業に従事していた原告が車道上の同図面<×>地点で交通整理のため右手を挙げて立ち止まっているのに気付かず、漫然と右速度のまま進行し、<×>地点の手前約一八・三メートルの同図面<2>地点に至ってはじめて原告を発見し、急制動の措置をとったが、間に合わず、<×>地点で原告に被告車を衝突させ、原告を同図面ア地点で転倒させたことが認められる。右認定事実によれば、被告岩松祐二の過失により本件事故が発生したことが明らかであるから、被告岩松祐二は民法七〇九条の不法行為責任を負う。

二  本件事故による傷害の程度(顔面打撲及び前歯三本折損の有無、後遺障害の内容程度)

1  前記争いのない事実によれば、原告は、本件事故により、全身打撲、右脛腓骨骨幹部粉砕骨折、左撓骨骨幹部骨折、眼けん打撲の傷害を受けた。

2  原告は、本件事故により、右傷害の他、顔面打撲及び前歯三本折損の傷害を負ったと主張するので、この点につき判断するに、証拠(甲一三号証、一四号証、原告本人)によれば、原告は、本件事故により、顔面打撲の傷害及び三つの歯冠破折(左上1、2は歯冠部の四分の三以上を喪失、左上3は軽度の歯冠部破折)の傷害を負ったこと、右三歯の歯冠破折について一旦歯冠補綴の治療を受けたが、その後本件事故に基づく左上1、3の歯の急性歯髄炎、左上2の歯の急性歯根膜炎を発症しその治療のため平成六年九月六日から平成七年四月二三日まで丘の上歯科医院に通院した(実通院日数三三日)ことが認められる。

3  後遺障害の内容、程度について

前記争いのない事実及び証拠(甲二号証の1、2、一四号証、原告本人)によれば、本件事故で被告車に衝突されて右脛腓骨骨幹部粉砕骨折及び歯冠破折等の傷害を負った原告は、症状固定時に次のとおりの後遺障害ないし自覚症状を有していたことが認められる。

(一) 右脛腓骨骨幹部粉砕骨折により右下肢が一・五センチメートル短縮している。

(二) さらに、右脛腓骨骨幹部粉砕骨折により右下肢の膝関節の可動領域が制限されており、正常な膝関節の可動領域が伸展時の〇度から屈曲時の一三〇度まであるのに対し、原告の右下肢の膝関節の可動領域は伸展時の一〇度から屈曲時の一一〇度までしかない。

(三) また、右脛腓骨骨幹部粉砕骨折により、<1>右脛腓骨に変形癒合があり、<2>右膝関節に脱力感があり、<3>右足関節内果部にしびれがある。

(四) 右(二)及び(三)の後遺障害があるため、<1>正座ができず、<2>自動車の改造整備作業のため、車の下にもぐり込んだり、しゃがんだり、膝立ちしたり、車の下を覗き込んだりすることが多いが、膝関節の可動制限で車の下にもぐり込む作業がしづらく、しゃがんだ姿勢から立ち上がるとき右足を軸にすることはできず、右足で膝立ちすることもできず、右足を軸にして車の下を覗き込むこともできず、これらの動作はすべて左足を支柱にして行わざるをえないので、左足が疲れ、作業能率が落ちる。

(五) 三歯の歯冠破折(左上1、2は歯冠部の四分の三以上を喪失、左上3は軽度の歯冠部破折)により、右三歯について歯冠補綴の治療を受けたが、左上3については軽度の歯冠部破折であったが抜髄を伴う補綴のため歯冠部の四分の三以上を失った。

そこで、右認定の後遺障害が自賠法施行令第二条別表後遺障害等級表のいずれの等級に該当ないし相当するかを検討する。

右(一)の後遺障害が、右後遺障害等級表の一三級九号(一下肢を一センチメートル以上短縮したもの)に該当することは、明らかである。

右(二)の後遺障害については、原告の右下肢の膝関節の可動領域が伸展時の一〇度から屈曲時の一一〇度までの一〇〇度あるので、これが右後遺障害等級表の一二級七号の「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」に当たるかが問題となる。右後遺障害等級表の等級判断に際して準拠すべき「労災保険における障害等級認定基準」によると、一二級七号の「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」とは、関節の運動可能領域が腱側の運動可能領域の四分の三以下に制限されているものをいうとされており、正常な膝関節の可動領域一三〇度の四分の三以下は九七・五度以下ということになるから、一〇〇度可動領域がある原告の膝関節は、わずか二・五度の差で一二級七号に該当しないことになる。しかしながら、自賠法施行令第二条別表後遺障害等級表の備考六は「各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であって、各等級の後遺障害に相当するものは、当該等級の後遺障害とする。」と規定して、形式的に各等級の後遺障害に該当しない場合にも実質的には各等級の後遺障害に相当するとの判断をしてもよいとしており、この規定の趣旨に照らせば、「労災保険における障害等級認定基準」による形式的判断では各等級の後遺障害に該当しない場合にも、実質的要素を考慮して当該等級の後遺障害に相当するとの判断をすることが許されると解するのが相当である。右見地に立脚して、原告の右下肢の膝関節の機能障害の有無を考察するに、原告の膝関節は右のとおり認定基準の運動可能領域よりわずか二・五度広く可動するため後遺障害等級一二級七号に該当しないことになること、他方、原告には右(三)で指摘したとおり<1>右脛腓骨の変形癒合<2>右膝関節の脱力感<3>右足関節内果部のしびれの後遺障害ないし自覚症状が併存していること、さらに、右(二)及び(三)の後遺障害があるため、原告は、右(四)で指摘したとおり、<1>正座ができず、<2>自動車の改造整備作業の際、車の下にもぐり込む作業がしづらく、しゃがんだ姿勢から立ち上がるとき右足を軸にすることはできず、右足で膝立ちすることもできないなどのため作業能率の低下を余儀なくされていることを総合考慮すると、原告は本件事故による右脛腓骨骨幹部粉砕骨折によってその膝関節の機能を実質的に侵害されているということができるから、原告には後遺障害等級一二級七号に相当する後遺障害があるということができる。

右(五)の後遺障害については、後遺障害等級一四級二号の「三歯以上に対し歯科補綴を加えたもの」に当たるかが問題となる。「労災保険における障害等級認定基準」によれば、「『歯科補綴を加えたもの』とは現実に(中略)著しく欠損した歯牙に対する補綴をいう」とされており、原告の三歯の歯冠破折のうち左上3については軽度の歯冠部破折であったが抜髄を伴う補綴のため歯冠部の四分の三以上を失ったにすぎないから、右(五)の後遺障害については、一四級二号に該当しないといえる。

以上によれば、本件事故によって原告には右下肢短縮及び右下肢膝関節機能障害の各後遺障害が残り、それぞれ後遺障害等級表の一三級九号、一二級七号に該当ないし相当するから、自賠法施行令二条一項二号ニにより、本件事故による原告の後遺障害は併合一一級に相当すると認められる。

三  原告の損害額について

1  医療器具代 八五五五円

証拠(甲一六号証、原告本人)によれば、原告は松葉杖を四八〇〇円、湿布薬を三七五五円で購入したこと、これらの代金の支出は本件事故と相当因果関係があることが認められる。

2  入院雑費 三二万二八〇〇円

前記争いのない事実によれば、原告は本件事故により合計二六九日間入院したことが認められる。そして、右入院期間中の入院雑費は、一日当たり一二〇〇円と認めるのが相当である。

3  通院交通費

原告は、通常は自家用車利用のため通院交通費を請求しないが、タクシーを利用したときの代金として一万三五九〇円を支出したと主張し、甲一六号証には平成四年四月二六日及び同年九月一四日にタクシー代合計一万三五九〇円を支出した旨の記載があるが、この両日にタクシーを利用しなければならなかった必要性を認めるに足りる証拠がないから、右タクシー代合計一万三五九〇円は本件事故と相当因果関係のあるものとは認められない。

4  付添い関係費用

原告は、川崎在住の両親が付添い看護をするために病院に駆けつけるための交通費として合計二四万〇九四〇円を支出し、さらに、両親の付添いは一七日間に及び一日当たり六〇〇〇円(合計一〇万二〇〇〇円)の看護費用がかかったと主張するが、右主張を認めるに足りる証拠はない。

5  歯科医療費 三〇万八九五〇円

二2で判示したとおり、原告は、本件事故に基づく左上1、3の歯の急性歯髄炎、左上2の歯の急性歯根膜炎を発症しその治療のため平成六年九月六日から平成七年四月二三日まで丘の上歯科医院に通院したが、証拠(甲一三号証)によれば、原告は右の治療費として三〇万八九五〇円を支出したことが認められる。

6  入通院慰藉料 三〇〇万円

前記治療経過(入院合計二六九日間。通院実日数合計五〇日間。)及び原告の前記傷害の内容、程度等を考慮すると、本件事故による原告の入通院に関する慰藉料としては、三〇〇万円が相当であると認められる。

7  休業損害 一一〇一万一五一九円

証拠(甲四号証)によれば、原告は自動車車体改造業を営み、本件事故の前年の平成三年には七一八万三七四九円の所得があったことが認められる。そうすると、原告の休業損害の基礎となる収入額は、年額七一八万三七四九円(一日当たり一万九六八一円)とするのが相当である。

これに対し、原告は、原告のような自家営業においては確定申告書で経費とされているうちには自家消費として所得の算定基礎に含められる部分が相当含まれていることは常識的に明らかであり、平成三年の確定申告書に経費として計上されているうち、少なくとも通信費の二分の一、広告宣伝費の二分の一、接待交通費の二分の一、損害保険費の全額、高速代の三分の一及びガソリン代の三分の一の合計一八四万七六五二円は所得に算入すべきであると主張するが、右主張を認めるに足りる証拠はなく、甲四号証によれば、右確定申告書の収支内訳書に経費として記載されている各金額が特に過大であるとは認められないから、原告の右主張は採用できない。

そして、前記争いのない事実及び証拠(甲二号証の1、2、五号証、六号証、一九号証、原告本人)によれば、本件事故日の平成四年三月一〇日から症状固定日の平成六年六月二〇日までの八三三日間のうち、前記入院合計二六九日間及び通院実日数一七日間(土沢整形外科一四日間と国立水戸病院三日間)の合計二八六日間は全く就労不能であったことが推認でき、残り五四七日間については、原告の傷害の程度、事業の内容及び後遺障害の程度等諸般の事情を考慮すると、健常時の五〇パーセントしか就労できなかったとみるのが相当である。

してみると、一日当たり一万九六八一円の収入のあった原告は、右合計二八六日間は全く就労不能であったことにより五六二万八七六六円の損害を受け、右五四七日間は健常時の五〇パーセントしか就労できなかったことにより五三八万二七五三円の損害を受けたことになるから、原告の症状固定日までの休業損害の総額は、一一〇一万一五一九円となる。

8  後遺障害による逸失利益 二三七七万三六一一円

証拠(乙三号証)によれば、原告は、昭和三七年一一月二四日生まれの男性で、前記症状固定時三一歳であったから、六七歳まで三六年間就労可能であったことが認められる。また、原告は、前記のとおり、本件事故により後遺障害等級併合一一級に相当する後遺障害を負ったことからすれば、その終生にわたって労働能力を二〇パーセント喪失したものと認めるのが相当である。したがって、逸失利益の算定の基礎となる原告の年収額を前記休業損害の算定の基礎となる年収額と同じ七一八万三七四九円とし、労働能力喪失割合〇・二を乗じ、中間利息を控除すべくライプニッツ係数一六・五四六八を乗じて、原告の逸失利益を算出すると、二三七七万三六一一円となる。

9  後遺障害慰藉料 三五〇万円

前記後遺障害の内容・程度(後遺障害等級一一級相当)、事故態様、その他本件において認められる諸般の事情を考慮すると、原告の後遺障害による慰藉料としては、三五〇万円が相当であると認められる。

10  以上1ないし9の損害金額に、争いのない治療費一四二万二六六五円、診断書等作成費用四万五〇〇〇円を加えると、合計金四三三九万三一〇〇円となる。

四  過失相殺について

1  証拠(甲一号証、一八号証、乙一ないし四号証、証人竹内清人、原告本人)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件事故現場及び付近の状況は、別紙図面に記載のとおりである。本件事故は、平成四年三月一〇日午前二時ころ、<×>地点で発生した。<×>地点は、まっすぐに延びた国道六号線の西行車線上に位置し、路側帯から一・一メートル北側にある。西行車線の南側には歩道が存在する。本件事故当時、国道六号線の東行車線上のA地点に自損事故を起こした車両が東行車線を塞ぐ形で停車しており、B地点に事故処理用のレッカー車が停車しており、右レッカー車の上部には黄色回転灯が点灯していた。本件事故現場は、非市街地にあり、付近に街灯はなく、事故当時深夜で暗かった。しかし、右歩道上にある電話ボックスから漏れる明かり及び渋滞している石岡市方面からの車両の前照灯の光(右自損事故車両に遮られながらも少しは漏れ届いていた)がわずかながらも本件事故現場に届いていたので、真っ暗という状態ではなかった。被告車の前方の見通しについては、直線道路なので遮るものはなかったが、下向きにしていた前照灯の照射距離が二六・八メートルしかなかったので、この照射距離より前方は光るもの以外は暗さのためよく見えない状態であった。そして、原告は、本件事故当時、青色のジャンパーの下に赤いつなぎの作業服を着ていて、全体として暗い色の服装をしていた。また、原告は、誘導用のライト等発光する物を所持しておらず、夜光チョッキ等光を反射する物を着用してもいなかった。なお、国道六号線は幹線道路で、夜間でも車両の交通量は多い。

(二) 原告は、貝塚自動車から自損事故を起こした車両の搬送を依頼されて、本件事故現場付近に竹内清人とともにレッカー車で赴いたが、警察官が来ておらず、右事故車両がA地点に東行車線を塞ぐ形で停車していたため、石岡市方面からの車両が渋滞したり、センターラインを越えて対向車線上に出て右事故車両の後ろを擦り抜けたりしていたので、二次災害を防止するため現場の交通整理をする気になった。そして、原告は、水戸市寄りの車道上の<×>地点に進み出て立ち止まり、石岡市寄りの車道上に立っている竹内清人と連絡をとりあいながら、交通整理を始め、先ずは水戸市方面から走行してくる車両を止めて石岡市方面からの車両を進行させ渋滞を解消させようと考えた。原告は、被告車が西行車線上を走行して接近してくるのを二〇〇ないし三〇〇メートル離れた<×>地点で認めたが、交通整理にあたっている原告の姿を被告が発見して停止してくれるはずであると考えて、<×>地点に立って、被告車を制止するため右手を挙げながら(このとき原告は被告車の進行状況を確認していなかった)、石岡市方面を向いて、竹内清人に対し石岡市方面からの渋滞車両を進行させるよう指示した直後、被告車に<×>地点で衝突された。

(三) 被告岩松祐二は、被告車を運転して時速約六〇キロメートルで本件事故現場手前の国道六号線の直線部分を水戸市方面から石岡市方面に向かって西進中、B地点に停車している事故処理用のレッカー車の上部に点灯している黄色回転灯をその約一一三・八メートル手前の<1>地点で発見したのに、これを工事中の表示と錯覚し、前方を注視しないまま、右速度で進行し、原告が車道上の<×>地点で交通整理のため右手を挙げて立ち止まっているのに気付かなかったが、<×>地点の手前約一八・三メートルの<2>地点に至ってはじめて原告を発見し、急制動の措置をとったが、間に合わず、<×>地点で原告に被告車を衝突させた。

2  右認定事実によれば、既に判示したとおり、被告岩松祐二は、前方を注視するとともに道路・交通の状況に応じた安全な速度で運転する注意義務があるのに、これを怠り、原告が車道上の<×>地点で交通整理のため立ち止まっているのに気付かず、漫然と時速約六〇キロメートルのまま進行した過失があることになる。また、同被告には、前方の対向車線上に点灯するレッカー車の黄色回転灯を発見したのにそこを交通事故現場であると認識せず工事中の現場と見誤った過失も認められる。

他方、右認定事実によれば、原告は、夜間の暗い非市街地の幹線道路で、暗い色の服装をして交通整理をするに当たり、前照灯を下向きにした被告車が接近してきていたのに、被告車が来る方面の安全を確認することなく、石岡市方面を向いたまま車道上に立ち止まっていた過失がある。

3  以上の被告岩松祐二の過失と原告の過失を対比し、本件事故現場付近の道路の状況、本件事故態様その他諸般の事情を総合考慮すると、本件事故に対する原告の過失の割合を三〇パーセントとするのが相当である。

したがって、過失相殺をした後の原告の損害金額は三〇三七万五一七〇円となる。

五  損害のてん補(既払金額の控除)

前記のとおり、原告が本件事故の損害金として合計四二七万五四七五円及び合計四一万一二九〇円の総合計金四六八万六七六五円の支払を受けたことは当事者間に争いがないから、これを右三〇三七万五一七〇円から控除すると、残額は二五六八万八四〇五円になる。

六  弁護士費用

原告が本件訴訟の遂行を原告訴訟代理人に委任したことは本件記録上明らかであるところ、本件事案の内容、審理経過、請求認容額等諸般の事情に照らすと、弁護士費用については、二〇〇万円をもって本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

七  まとめ

以上によれば、原告の請求は、被告ら各自に対し二七六八万八四〇五円及びこれに対する本件事故発生の日である平成四年三月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。

(裁判官 中野信也)

交通事故現場見取図

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